医薬品マーケティングのキモ:セグメント

医薬品セグメンテーションの特徴


株式会社マーケティングインサイツ代表、医薬マーケティング・トレーナーの尾上です。

医療用医薬品のマーケティングでは、消費財と比べると、セグメンテーションの理解が難しいのをよく経験します。

その理由はふたつあるでしょう。ひとつは顧客の重層性です。ご存知のように医療用医薬品はOTC薬とは異なり、消費者への直接販売はしません。ですからB to Bの要素を持っています。つまり、あらゆるB to Bビジネスの場合と同様に、顧客の先に顧客がいる、という関係が成り立っています。

実際、製薬メーカーから見た場合には、目の前にいる医療関係者(ヘルスケア・プロフェッショナル)と、その先にいる医療消費者(患者さん、家族など)の両方を「顧客」として両にらみで認識しなくてはなりません。

マーケットセグメンテーション(市場細分化)とは、マーケットを意味のあるサブ区分に分けることですが、この場合の市場とは「顧客」を指しています。ですから、マーケット・セグメンテーション=カスタマー・セグメンテーションにほかなりません。「顧客」を分けるときに、ヘルスケアプロフェッショナル(通常は医師)を分けることと、患者さんを分けることを、連動させながらも別々にやらなくてはなりません。ここが混乱したり、理解しずらい点の最初のポイントです。

 

【医師のセグメント】【患者のセグメント】を分けているか?

ブランドプラン(製品マーケティングプラン)の発表スライドに、単に「セグメンテーション」とだけ記載があるものをしばしば目にしますが、読み手はそれが、患者を区分したのか、医師(時には施設)を区分したものなのかを、読み取らなくてはなりません。プランの書き手や発表者は、この区別をしっかりつけたうえで、誤解や混乱がないように発表しなければなりません。

さらに、患者セグメントと医師セグメントが2つ別々に併存している訳ではありませんので、この2種類のセグメントがどのような関係にあるのかを示さなければなりません。ここはマトリクスで表現するのが便利です。

具体的には、患者セグメントを表頭、医師セグメントを表側といった形です。

 

このように考えると、消費財のセグメンテーションを学んで、それをすぐに医薬品に応用するのは、ややハードルが高いと思われます。多くの方が躓くのはこのあたりです。

  1. まずは患者さんのセグメントを決める
  2. その患者さんセグメントのどこを自社製品がもっとも得意とするのかを確認する(おもに薬剤特性で)
  3. 得意とする患者さんセグメントに対しては自社製品を(優先)処方するというこちらからの提案に対して、最も同意してくれそうな医師はどんな医師なのかを考え、その医師のサブグループを見つける
  4. 提案のしやすさ、アクセス・ツールの豊富さなどから医師をいくつかのサブグループに分け、医師セグメントを完成させる
  5. このとき、あまりにも規模が小さければ実用的でないので、市場サイズ、そのほか企業としてその医師セグメントに実際に接近できるのかどうかという到達可能性を考慮する
  6. 患者と医師のセグメントをそれぞれ、縦軸、横軸にとって、両者の関係をマトリクスで表現する
  7. 自社製品にとって重要な患者×医師セグメントのサイズを想定して、ターゲットを決めて行く。このとき、より好ましいセグメントとしては、成長性が見込める(今が大きいだけでなくこれから伸びる余地があるか)、多少なりとも波及効果が見込めそうか、最後に競合状況はどうか、などを考慮する。

と言った流れになるでしょう。

 

 

 


セグメンテーションとターゲティング

セグメンテーションとターゲティングは、教科書的には分けて記述されることが多いですが、実務上は、ほぼ同時になされます。あるいは、行ったり来たりします。

表現すると

【セグメンテーション】⇔【ターゲティング】

となるでしょう。

思考として、順にながれることは無いと言えます。

つまり、切る段階で、自社製品の特長が生かされるような切り口を見つけて切る(分割する)わけです。

 

■ターゲット医師セグメントをいくつにするか?

この段階での、最大の問いは、「いったいいくつの医師セグメントを(同時に)ターゲットにするか?」ということです。

2つ以上を意識的に選択するというケースが世の中には多いのですが、「ちゃんとしたセグメンテーションに今回初めて取り組みます」という場合には、まずはひとつのセグメントでやってみるというやりかたも検討しましょう。

つまり、いま一番やらなければならない(説得したい)医師のグループを今回のターゲットセグメントに設定して、そこの特定医師グループに、何に関する情報を、(医師グループの特性にマッチさせて)何をハイライトして、どのチャネルで、どんな資材や施策・企画を使って、どう届けるのか、を考えるのです。

 

こんなふうに言うと、「ターゲットから外れた、それ以外の多くの医師には何もしないのか?」とよく訊かれますが、実際問題として、新製品でない限り既に何らかの「活動」が医師に向けて進行中でしょうから、それを止めるのではなく、そのうえで上記で特定したひとつの医師セグメントに、特別な目的を持った活動を一定期間行う、と考えれば良いでしょう。

教科書的には、ニッチマーケティングという分類に入れられてしまいそうですが、まずこれでやってみてセグメントの手ごたえを計測し、うまく行ったのであれば、次の別な医師セグメントに拡大してゆく方が、着実で現場の理解も得られやすいでしょう。

 

本来的には、異なるセグメント顧客に対して、異なるアプローチをする、というのでしょうが、いっぺんにやって混乱をきたすよりも、まずはこの方法をお勧めします。